その背中

最近どうだ、と尋ねられれば、何がですかと答えざるを得ない。決まってるだろうと菫色の瞳が語るのは、ほかでもないメイスのことだ。

メイスは最近、自分たちとは違う部署に一時的に配属され、勤務時間がずれ込んだ。ボスとはなかなか会うことができないから、つい先程すれ違ったときに、あまりに痩せこけてしまったことを心配しているのだ。かく言う自分も、朝を迎えて隣で熟睡している彼を起こすのは流石に憚られて、食事までは気を回せていなかった。

「ちゃんと僕らがやってやらなきゃ、彼はうっかりさんだからな」

「はぁ」

もともと食に頓着がない彼は放っておくと栄養ドリンクだけで三日も四日も起きている。食って寝る、それだけのことが彼は億劫らしい。

そして今日も朝を迎える。

俺の腕に自分のを絡め、静かに寝息をたてている。薄暗い部屋の中でなにがわかるものでもないが、心なしかほおがこけている。自慢だという髪にも艶がない。

メイス、と心の中で呼んで、起きるのを待つ。寝てて欲しいがちゃんと食べろと叱りたい。しかし彼を振り払えない。

「……無理すんなよ、お前だけの体じゃねーんだぞ」

黙ったまま安らかに眠るメイスにため息をつく。今日は遅刻しよう、そうしよう。決意して薄い背中を抱いた。

金平糖

二次創作のかけら

0コメント

  • 1000 / 1000