窓辺に寄りかかり空を見つめる背に、触れたかった。
星のない夜、風は凪いで虫も吐息も掻き消えた。
貴方の知らない世界を俺はたくさん知っているが、俺の知らない世界を、貴方はたくさん持っている。
俺たちが成し得なかった夢。それを与えようと言って、貴方は颯爽と現れた。
「まるで神の思し召しか」
仲間のひとりは笑った。あんな少年に何が出来るんだと。力が全てではないと、心配がる者もいた。
そんなことどちらでもいい。俺も、あいつも、貴方を信じると誓ったから。
だから貴方に触れたい。
分かち合い、覚悟したい。
「ボス、交代です」
「わかった」
「眠ってください。昨日もさして寝ていないでしょう」
「……いや、今日はあまり疲れていないから。少し走ってくる」
ありがとう。そう言って彼は手を差し出す。
ちいさなこの手は、今までどれほど虐げられて来ただろうか。
ひたりと合わせて微笑むと、微笑み返した菫色の瞳が一瞬だけ揺れた。
「頼むぞ、メイス」
「はい」
貴方はまた、真っ直ぐ前を向き歩き出す。
愚問だとわかっている。だが問わずにはいられない。
その瞳の奥に何があるんですか。俺たちに言えないことですか。貴方は俺たちを、信用してくれていますか。
どうして何も言ってくれないのですか。
「ボス!」
痺れを切らして振り返ると、彼はもういなかった。
ため息は夜に溶けた。
星のない夜。子供たちは怖がって、大人たちと温め合って寝ている。
貴方もまだ子供なのに、いつもたったひとり。
両手で顔を覆い、俺もまたひとりの夜を感じると、炎は余計燃え盛る。
ボス、貴方はまだ自分が、この村では余所者だと思っているでしょう。無理もない。出来上がったコミュニティに、しかもあんなに壮大な力を持ってやってきた貴方を、素直に受け止められない奴もいます。
けど、だけど……。
「無闇に干渉するなって、言うんですか?」
むごいことを言う。俺たちはもう、貴方なしでは前へ進めない。貴方の炎を欲してるんです。
窓の外は闇。
デトロイトは夜明けに向かって、ひとりエンジンを蒸していた。
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