VAN HOUTEN

寒いっすね。ソファに座ったまま一言漏らすと辺り一帯がざわついた。きょとんとしているとため息混じりのレミー先輩に制服を差し出される。

「そんな格好じゃ当たり前だろ、もう冬だぞ」

「あ、つい癖で」

でも隊長だってタンクトップとか、ほぼ上裸な時だってあるのに。礼を言っていそいそと着込む俺に続いてやってきたのはアイナのココアだった。

「はい、はちみつ入りだから美味しいよ、飲んで飲んで!」

マグカップには鈍色の空と雪に覆われた景色が描かれて、寒々しいその中にミルクが渦巻く甘い香りがあった。両手で包むとじんわりと痺れをきたして、飲み進めた途端、体の芯に炎が灯るようだった。

「メイス、寒いのか。僕がここにいよう」

「ボス、」

ふぅ、とため息をついているとボスが俺と同じマグを持ってソファの隣に座り込み、ぴったりとくっついて来る。腕を組んで設置面を増やし、彼の高い体温が布越しでも伝わってくる。

「ありがとうございます、飲みづらくないですか?」

「僕はもう少し冷めてから飲むから大丈夫だ。メイスは飲めるか?」

右手で飲むので大丈夫です。そう言って軽やかな金色の髪にそっとこうべを垂れると、しゃら、と愛おしい音がした。

直後、突然背中を押される。ぱしゃ、とマグの中身が揺れてドキッとした。

「うおっ、てめぇ何すんだよ!」

「風邪引いてんじゃねーぞお前」

ゲーラは俺とソファの間に無理に入り込み、ボスも巻き込んで跨ぐように座る。その細い両腕が俺たちを抱きしめるとボスは楽しそうに笑う。

「笑い事じゃないですよボス、こぼれるかと思った…」

「はは、危なかったな」

「俺も飲む、少しくれや」

「自分で入れろ!」

なんだよお前も入れてもらったくせに。そう文句を垂れるゲーラの後ろでは、初雪が降っていた。街路樹は寒風に揺れ、冬の訪れをまざまざと見せつける。

改めて見上げた赤い瞳は何も変わらず俺を見つめる。それはいつでも俺に熱い炎を与えた。

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