数え切れないほど傷つけて、数え切れないほど傷つけられた。あの時どうするのが最善だったか、何度も何度も反芻しては悲劇を繰り返す。夢にまで見る焼け野原。名前、性格、好きなもの嫌いなもの、全部知ってた。なのに俺が殺した。殺さなくてはいけなかった。俺は神様ではないが、俺を裁くものはなかった。
だって俺はバーニッシュだから。醜くて汚い突然変異だから。悲しくなんかない。法律も確立されていない頃から俺はただ、天から降る炎の声に従って、体を燃やすだけだった。
「それが運命だ」
「それは決定論か?宿命論か?」
「……綺麗事はよせ、どうせお前だってそうだろ?」
俺と真反対の赤い炎はいつでも俺に反論する。
「炎の声なら俺も聞こえる。だが俺は俺のしたいことだけをする。炎の言いなりにはならねぇ」
彼は俺の頬に手をやり、俺はその冷たさにひくりと肩がすくむ。彼は気にせず続ける。穏やかに、俺を諭すように、全部わかっているとでも言うように。
「お前の運命はお前で変えられる。だから前向け。俺もいるからよ」
お前はバーニッシュなのにどうしてそんなに楽観的なんだ。友達も、パパもママも見放した俺のことを、お前は俺と同じだって言って引き寄せる。苦しい。同じなわけない。太陽のようなお前の背中を、真っ直ぐに追っていけるとは思えない。
お前の運命論になぞらえるなら。そう軽やかな高い声がタクトを振り、抑揚をつけて言葉が紡がれる。
「俺のは決定論だ。お前がいるから俺がいる。お前がバーニッシュでも、そうでなくても、お前だったから俺はやれた。ありがとな、相棒」
「…俺が、バーニッシュじゃなかったら、出会ってなかったろ」
「そうだなぁ、けどこうして会えたんだから、それだけでいいんじゃねえか」
きり、と唇を噛み締める。甘えてはいけない。じゃあ、お前は、俺が声を出したら迎えに来てくれるのか?雨が降ったら?悲しくなったら抱きしめてくれるとでも言うのか?
陽だまりの中をのうのうと生きるなんてもう出来ない。俺たちを待ち構えているのは、業火へ向かう宿命だ。
しかしゲーラはさも当たり前のように言う。
「何があってもお前を守る。この村のみんなもな」
一点の曇りもない真っ赤なまなこ。それは命の火を煌々と燃やしていた。
「は、はは、どこぞのヒーローもビックリだな」
思ったよりも声が上擦った。本当にお前は馬鹿だな。現実を見れないで叶いもしない白昼夢ばかり。だけどそんなお前の見る夢を、俺もどうしても捨て切れない。もしかしたら、お前となら、叶えられるんじゃないかと思ってしまう。
俺も大概馬鹿だなと、左腕の刺青の跡を撫でて、こんな運命も悪く無いと思った。
「なんで泣くんだよ。俺じゃ嫌か」
「…ちげぇよ……馬鹿なやつだなって思ったんだ」
「馬鹿はお前だろー?」
彼は脱いだジャケットをバサリと俺に着せて、冷やかすように頬をつねる。干したばかりのお日様の匂いがする。温かさが切なくて涙をこぼすと、彼はとてもうろたえた。
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