ほんのひとこと ねぇ、のあとにお名前を呼ぶのはいつものことだった。いつものように茶に誘っていただいて、甘味を食べて微笑ましく話をしている。それが、甘い餡やみたらしを味わう以上に幸せで、ここへ来てよかった、と再認識する。 いぐろさん、と呼べば彼は目を細めて、どうした、と私を呼んでくれる。わかってる。わかってるからこそ、もどかしい。「甘露寺、皿があいてきたがいかにしようか」 鏑丸くんが私の鼻先をちょんと舐めて、いなす。「あっ、ええーっと、私……」 しどろもどろとしながら、言うか言うまいか、目が泳ぐ。「……きみは、私と話す時、いつもそうだな」 えっ、私、なにかお気に触ることをしてしまったかしら。気を落ち着かせようと冷えた湯呑みに手を伸ばす。鏑丸、と伊黒...08Feb2024おばみつ
軽い食感 ほらよ、と渡された、親指ほどの包み。ちっさ、と小さく返す。「侮るな、まぁ開けてみろよ」 促され針金の留め具をねじる。こういうタイプ、どっちに回せばいいか一瞬わからなくて苦手なんだよな。俺が苦戦している様子をメイスはにこにこと見下ろしていて、少しばかり嫌な気配すらする。「なんだよ、爆発でもすんのか!」「アホ、ちげーよ」 ビビットなピンク色の包みを開けると、中から丸い玉が出てきた。「……チョコ」「そう、トリュフチョコだ」 大袈裟に胸を張るメイス。トリュフチョコがなんなのかわからない俺。「ピザ屋でもらったんだけどよぉ、うまいぜ? カリッとしてフワッとすんだよ。ゲーラの分ってもらったから持ってきてやったぜ。ありがたく思え」 肩を組んで自慢...07Feb2024ゲラメイ